立ち読みコーナー
目次
344ページ
登場人物紹介
ジンジャー・ピート          バー〈センセーション〉のバーテンダー
ウィラ・ピート            ジンジャーの妹。高校生
ヴァレリー・ピート          ジンジャーとウィラの母親 
デレク・タイラー           シカゴ市警警部補
アルヴァレス             デレクの部下
アマンダ               ジンジャーの店の同僚
ヘイウッド・レヴォン         ナッシュヴィルの大物ギャング
ウィンストン             ヘイウッドの部下
レオン・バーカー           市会議員
パティー               シカゴ市警指令係
リーサ                デレクの同僚で、元カノ
87ページ~
 デレクはキッチンを歩きまわり、あらゆるものに目をやり、重さや寸法を測っているようだった。たぶん勤務時間外でも、観察して分析する能力のスイッチを“オフ”にすることはできないのだろう。でも彼が自分のうちにいるのは奇妙な感じだった。正直に言えば、どの男でも自分のうちにいたら奇妙な感じだけど、とくにデレクはジンジャーを落ち着かない気持ちにさせる。次にどうするのかまったく予想できない。ふたりは肉体的に惹かれあっているのは間違いないし、ジンジャーはそれを先に進めたいと思っていたけど、中華料理とかウィラとのおしゃべりとか、そういうのはセックス以上のなにかに感じられる。
 そんなことを考えたらパニックになりそうになって、ジンジャーはここでもう一度、境界線を引いておくべきだと決めた。ふたりの関係は厳密にからだだけにする。だれが相手でも、面倒な感情的なもつれなんてごめんだった。
「なにか違法なものを探しているの、デレク? そうしたらわたしに手錠をかける口実ができるから」
 近づいてくるデレクの目の色が濃くなり、ジンジャーの背筋に震えが走った。あらら、わたしの警部補さんはダーティートークが好きなんだ。ジンジャーは彼の弱点を見つけてうれしくなった。彼は職場では強固な自制を保っているけど、彼女のそばでは、セクシーな魅力びんびんのバッドボーイになる。
「ベイビー、おれがきみに手錠をかけるのに口実は要らない。必要なのは機会だけだ」
 わお! その短い台詞で、彼はジンジャーをものすごく興奮させた。もしかしたら、彼女の弱点も彼と同じで、ダーティートークなのかもしれない。デレクが目の前に迫ってきて、ジンジャーはシンクに追いつめられ、彼を見上げた。
「そう、それであなたはどうやって、その“機会”をつくるつもり?」
 デレクは片手をあげて親指で彼女の下唇をなでた。「署に戻るまであと一時間ある。そのあいだに三通りのやり方できみをファックできる」
 ジンジャーは思わず息をのんだ。「ほんとにはっきり言う人ね、警部補さん」
「きみはそのほうが好きだろう」
 わたしは彼のみだらな話し方が好き? イエス。わたしは怒るべき? たぶん。でも彼の言葉は率直に感じられたし、その言葉が彼女のからだを昂らせているのは否定できない。
「そうかも」ジンジャーが舌を出して、唇にふれている彼の親指の腹をなめると、デレクはうめき声をあげた。「でも中華料理くらいじゃ誘惑されないわ。もっと努力しなさい、デレク」
「なるほどそうか。だがひとつだけ言っておく」デレクはそう言うと、彼女をとじこめるように両手をカウンターにつき、頭をさげた。その舌で首のつけ根から上まですっとなめあげられて、頭がくらくらしてくる。「おれがきみの脚のあいだに入りこむのに時間がかかればかかるほど、ついにそうなったときのおれは乱暴になる。わかったか?」
 呼吸が乱れて、胸が急速に上下している。彼のアパートメントに連れていってその脅しを実行してほしいと懇願してしまいそうになるのを必死でこらえているせいで震えながら、ジンジャーはうなずいた。
 こんな簡単に、彼に降伏してしまうなんて。でもすごく気分がよかった。
 彼女の背中を滑りおりた手がお尻をつつみ、あからさまに所有権を主張するように揉みしだいた。
「今夜はいい子にしていろ、ジンジャー。言うことを聞いたかどうか、すぐにわかるからな」そういうと、彼は踵を返してアパートメントから出ていった。ジンジャーはその背中を見つめるしかなかった。
 これがパターンになりつつある。