立ち読みコーナー
目次
544ページ
登場人物紹介
ウィンター・メドウズ        瞑想インストラクター
ジャック・ランカスター       犯罪心理研究者
マーガレット・バーク        睡眠クリニック院長
クィントン・ゼイン         かつてのカルトの教祖
アリゾナ・スノー          ウィンターとジャックの大家
ケンドール・モーズリー       スパの会員
ジェシカ・ピット          自動車火災の犠牲者
デヴリン・ナイト          傭兵
ヴィクトリア・スローン       傭兵
ローリー・フォレスター       スパ経営者。ウィンターの元ボス
グレーソン・テイズウェル      テイズウェル・グローバル社社長
イーストン・テイズウェル      グレーソンの息子
レベッカ・テイズウェル       イーストンの妻
ルーカン・テイズウェル       グレーソンの行方知れずの息子
アリス               ウィンターの妹
ヘレン・ライディング        アリスのおば。人類学者
スーザン・ライディング       ヘレンのパートナー。人類学者
ブリタニー・ネトルトン       ソーシャルワーカー
ゲール・ブルーム          スパの受付嬢
ニーナ・ヴォイル          スパのサプリメント担当者
ラニー・ロング           エステティシャン
アンソン・サリナス         ジャックらの養父。元警察署長
マックス・カトラー         私立探偵。ジャックの兄弟
カボット・サター          私立探偵。ジャックの兄弟
ゼイヴィア・ケニントン       カボットの従弟。探偵事務所のインターン
202ページ~
「今夜きみを殺そうとした男が警官にひとことも話さずに死んだ事実だ。それも驚くべき偶然だと?」
 ウィンターは呼吸を落ち着かせようと、ゆっくり息を吸いこんだ。「そういうことなら、わたしもアルミ箔のヘッドギアを買ったほうがいいかもしれないわね」
「ゼイン陰謀論クラブへようこそ。きみが知らないことがまだまだいっぱいあるんだ。数カ月前、シアトルでいくつかの事件があり、ぼくは確信を持った。もしクィントン・ゼインが生きているとしたら、どんな穴かは知らないが、外国のどこかのこれまで暮らしていた穴から出て、アメリカに戻ってくる準備がととのったのだろうと。だが、ぼくと兄弟を抹殺しないかぎり、ここがけっして安全ではないことはわかっているはずだ」
「みんながゼインはヨットの火事で死んだと思っているけど、あなたと家族は彼が生きていると信じているからね。あなたたちは永久に彼を探しつづけるから」
「それに、家族の中でもぼくがいちばん先にやつの帰還に気づく可能性が高いとわかっているはずだ」
「あなたの思考回路をわかっているのね」
 ジャックはソファーから腰を上げ、狭いリビングルームをうろうろしはじめた。「やつの身になってみれば、家族の中からまずぼくを消したいと思う。それも、アンソン、マックス、カボットにこれという手がかりを残さない方法で実行したい。彼らや警察にいる友人に正しい方向を示すような痕跡がいっさい残らないようにする。そのためには偽装が必要になる。疑いの目をまったくべつの方向に向ける戦略を練る必要がある」
「それと知られたストーカー」ウィンターが言った。「ケンドール・モーズリー」
「そうだ」
「ふうっ。あなたのためにひとつだけ言っておくと、陰謀論を唱えるときは、もっと堂々と話すことね」
 ジャックは足を止めてウィンターをじっと見た。黙ったままだ。ウィンターは思った。彼が言うことをいちいちはねつけた結果、彼は心を鬼にしようとしているのだ。
「せっかくこうして議論したんだもの」ウィンターはつづけた。「最悪の場合、あなたが正しい場合にそなえましょうよ。これからどうするの?」
「生きているケンドール・モーズリーを最後に見た人間から話を聞く必要がある」
「病院にいた誰かだわね」
「モーズリーの病室の前に警官を一名配置したと署長が言っていた。誰が病室に出入りしたかを突き止めることはできるだろう」
「生きているモーズリーを最後に見た人間が彼を殺したと思っているのね」
「ああ、そうだ。それじゃ、すぐ行動に移そう。あくまで慎重にいかないと。もしゼインの仕業だとしたら、もしぼくがやつという人間を正確に理解しているとしたら、この計画が頓挫をきたしたことでひどくまいってるはずだ。やつは失敗に慣れていない。失敗で冷静さを失っているはずだ」
「それがいいことみたいに聞こえるけど」
 ジャックがウィンターをちらっと見た。「やつは事態を収拾するために素早く動きはじめる。それはつまり、多少の危険を冒すこともいたしかたないと思っているから、ミスを犯す確率も高くなる」
「どうしてそんなことまでわかるの、ジャック?」
「やつを長年研究してきたからさ」
「言い換えれば、明晰夢の能力を使ってさまざまなシナリオを試してきた」
 このときもまた、ジャックはいったん足を止めてウィンターと目を合わせた。「正気じゃないと思う?」
「ううん」ウィンターが言った。「正気じゃないっていうのは、妄想の対象を殺そうとする人間よ。ケンドール・モーズリーは正気じゃない部類ね」
 ジャックはほっとしたようだ。窓際に行き、海に射しはじめた早朝の光をじっと見つめる。
「ゼインについてはっきりとわかっていることがひとつある。やつの勝負の終わりがどんな形を取るにしろ、必ず火が絡んでくる」