立ち読みコーナー
目次
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登場人物紹介
スヴェトラナ(スヴェティ)・アルドヴァ          人身売買反対活動家
サム・ピートリー                     元刑事
ソニア・アルドヴァ                    スヴェティの母親。故人
サーシャ・チェルチェンコ                 スヴェティの友人
ミーシャ・チェルチェンコ                 サーシャの弟
パヴェル・チェルチェンコ                  サーシャとミーシャの父親。マフィアのボス
ジョゼフ                         パベルの部下
マイケル・ハズレット                   イルクシット財団の代表
レナート                         ソニアの恋人。イタリアの伯爵
デイビー・マクラウド                   マクラウド兄弟の長男
コナー・マクラウド                    マクラウド兄弟の次男
ショーン・マクラウド                   マクラウド兄弟の三男
ケヴ・マクラウド                     マクラウド兄弟の四男。ショーンの双子の弟
エディ・マクラウド                    ケヴの妻
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 スヴェティは離れようとしなかった。サムは彼女の肩を撫で、完璧な胸を包みこんでいる、襞を寄せた生地を固定しているストラップに触れた。それをさっと引きおろすと、彼女は目を見開いた。滑り落ちたドレスが乳首に引っかかる。彼女が両手をあげようとした。
 サムはその手をつかみ、彼女の目を見つめた。ドレスのカップ部分が垂れさがった。
 スヴェティはあらがわなかった。浅い呼吸をしながら、じっと立っている。つんとした美しい胸があらわになった。
「すごくきれいだ」サムはささやいた。「夜、ベッドに横になって天井を見つめながら、きみのこんな姿を想像していた」
 ゆっくりと手探りした。彼女のそばにいるときだけ目覚める秘密の感覚を使って。彼女に対してだけ働く目や耳。それらを研ぎ澄ました。彼女の奥深くに入りたい。自分のものにしたい。緊張を味わってから、思いきって両手を上に滑らせ、震える指で乳房を包みこんだ。
 スヴェティは体を震わせたあと、かすかなうめき声をもらした。濃いピンクの張りつめた乳首ややわらかいふくらみを、円を描くようにそっと愛撫する。完璧だ。弾力があっておいしそうだが、口をつけるのはまだ早い。彼女は頭をサムの肩にもたせかけていて、あたたかいかすかな重みが奇跡のようで、この瞬間を壊したくなかった。
 息を吸いこむと、甘く芳しい香りがした。ヘアピンが抜け、豊かな髪がサムの腕にかかっている。服の袖が邪魔だ。なめらかな髪の重みを直に感じたかった。指がじんじんする。彼女が触らせてくれている。それだけで恐れ多くて体が震えた。
 スヴェティが振り返って見あげた。唇がすぐ近くにある。
 この前と同じだ。自制心が吹き飛んだ。
 スヴェティがサムの首に両腕を巻きつけ、身をゆだねた。ああ、信じられないほどやわらかい唇。甘く優しい味。サムはさっと見まわして、横になれる場所を探した。細長い脚の椅子、クロスのかかったテーブル、壊れやすいアンティーク。ソファや寝椅子はない。つまり、今回も壁しかない。重力はなんとかしよう。上半身の力を使えばいい。
 彼女を抱きあげ、数歩歩いて、一番近くの空いている壁に押しつけた。もっと触って、味わって、知りたい。身をかがめて胸にキスすると、彼女はうめき声をもらし、胸を波打たせて、彼の髪を指に巻きつけた。サムはスカートを持ちあげ、片手で太腿を撫であげた。なめらかで熱い。やわらかい襞を覆う薄いシルクが湿っていた。濡れている。早く味わいたかった。なかに入りたい。奥深くに。いますぐ。強い欲望に駆られた。彼のなかにいる野獣が飛びだそうとしている。
 彼女の太腿が震えている。サムはなめらかな襞の内側に指を滑りこませた。熱い楽園に分け入り——。
 トン、トン。「スヴェティ? スヴェティ! ピートリー? そこにいるの?」
 ドン、ドン、ドン。ノックの音が大きくなった。タムの声。一瞬の間のあと、鍵のかかったドアがガタガタ鳴らされた。ドン、ドン、ドン。「スヴェティ! 返事をして!」不安そうな鋭い声。
 くそっ。おれは呪われている。
 スヴェティがサムの手を振り払って逃れた。髪を撫でつけ、胸をサテンのドレスに押しこみ、口をぬぐったが無駄だった。激しいセックスをしていたように見える。髪が乱れていて、紅潮し、ぼうっとしている。セクシーだ。
「ちょっと待って!」震える声で叫んだ。「いま行くわ!」
 ああ、いかせたかった。あともう少しだったのに。残酷だ。
 スヴェティが顎でドアを示した。「開けてあげて」
 サムはしぶしぶガタガタいっているドアへと向かった。
「スヴェティ、さっさと開けないと、ドアをぶち壊すぞ!」
 なんてこった。ニック・ワードの声。肉体派の男だ。サムは鍵を開けると、うしろに飛びのいた。ドアがぱっと開き、ニックとタムとヴァルが部屋に飛びこんでくる。彼らは、頬が赤くなり、化粧がはげているスヴェティを見つめた。それから、非難のまなざしをサムに向けた。
「いったいどういうことだ?」ニックが強い口調で尋ねた。
「マイルズはどこ?」タムがきく。
 サムは肩をすくめた。「急用ができたんだ」
「本当に?」タムが、こんな状況でもまだふくらんでいるサムの股間をちらりと見て、口を引き結んだ。「あとでちゃんと話をしないと」
「そんなことしなくていいわよ」スヴェティが言う。「サムは一緒にいてくれただけよ。そうするようあなたが脅したんでしょう」
「あなたの胸に頬ずりしろとは言わなかったわよ」
「やめてよ」スヴェティがかっとなった。
 気まずい沈黙が流れた。ヴァルがなだめるように言った。「あっちへ戻ろう、スヴェティ。招かれざる客はもう帰ったから」
「ええと、誰のこと?」スヴェティはずっとそわそわと髪を撫でつけていた。
 タムがぐるりと目をまわした。「誰って、十五分前はオレグが来たってさんざん騒いでいたのに」品定めするような目つきでサムを見た。「こんなこと言いたくないけど、あなたはうまいみたいね。意外だわ」
 サムは返事をする勇気がなかった。この危険なお世辞を認めたら、ボルトカッターを向けられかねない。
 スヴェティが髪を振り払った。「よかった。帰ったのね」
「みんな喜んでるわ」タムが言う。「あなたももう帰る時間よ。ジョシュにあなたの上着を取ってくるよう頼んだの。彼が——」
「おれが家まで送る」サムはさえぎった。
「だめ!」全員が——スヴェティまでもが、いっせいに言った。
 サムはため息をついた。「わかった」勝手にしろ。
 キャトレルが部屋に入ってきた。「ジャケットが見つからなかった。どんな——」
「いいのよ、あなたはここに残って」スヴェティが言った。「ひとりで帰るから」
「ひとりで?」キャトレルがとまどった顔をする。「車で送るよう頼まれたんだが」
「ひとりで帰れるわ。代わりに配膳係の女の子を送ってあげて。どっちでも好きなほうを」
 キャトレルがむっとした。「この話はすんだはずだ。ぼくはきみには——」
「わかってるから」タムが割りこんだ。「うぬぼれないで」
「口出ししないで、タム!」スヴェティが怒鳴った。「いいのよ、ジョシュ。気持ちはうれしいけど、タクシーを呼ぶから」サムに視線を向ける。「忘れられない夜になったわ」そう言うと、急いで出ていった。