立ち読みコーナー
目次
520ページ
登場人物紹介
モーガン・アドラー               考古学者
パックス・ラブ・ブランチャード         アメリカ陸軍曹長
キャシアス・キャラハン(キャル)        アメリカ陸軍一等軍曹
オリアリー                   アメリカ海軍大佐
サヴァンナ・ジェームズ(サヴィー)       CIA局員
セバスチャン・フォード(バスチャン)      アメリカ陸軍上級准尉
シャルル・ルメール               ジブチの文化大臣
アリ・アンベール                ジブチの天然資源大臣
ジャン・サヴァン                ジブチの観光大臣
アンドレ・ブルサール              地質学者
アドラー将軍                  モーガンの父親
イブラヒム                   発掘現場のスタッフ
ムクタール                   発掘現場のスタッフ
ヒューゴー                   ジブチ人の少年
エテフ・デスタ                 エチオピアの軍指導者
ケイリー・ハルパート              地域連絡員
オズワルド                   アメリカ陸軍大尉
84ページ~
 ブラジャーとTシャツがきつすぎることは、有利に働くかもしれない。〈ダブルD〉のウェイトレスを辞めてから胸を見せびらかすことはなかったけれど、今夜は水兵や海兵隊員に話しかけて車に乗せてくれる人を見つけなければならないのだから、この胸が役に立つだろう。
 少なくとも、ウェイトレスをしていたおかげで、胸を見た男たちの反応には慣れている。不快ないやらしい目つきは無視し、称賛のまなざしを楽しむ方法を覚えた。人に見られるのを楽しめないなら、チップを弾んでもらうために体を武器にするのはやめたほうがいい。舌なめずりされるのは気持ち悪いけれど。
 カウンターへ行き、隅のほうのスツールに座ると、ライムトニックを注文した。鎮痛剤を投与されたのでお酒は飲めないが、飲んでいるふりならできる——そのほうが声をかけられやすくなる。
 バーを見まわした。助けてくれそうなのは誰? 
 駐車場から車を出せる兵士でなければならない。とはいえ、今日の事件のあとでは警備が強化されているはずなので、無理かもしれない。この基地のやり方がまったくわからなかった。
 ライムトニックを飲みながら、ビリヤードをしている兵士たちを観察した。若すぎる。十代後半から二十歳過ぎの青年たちに声をかけることはできない。モーガンは三十一歳で、法律上お酒を飲めない子たちにちょっかいを出すと考えただけで怖気(おじけ)づいた。舌なめずりをする不気味な年寄りと同類になりたくない。
 二十一歳以上なら問題ない。少なくとも、スケベな教授になったような気はしないだろう。
 パックスみたいな兵士が理想的だ。ちょうどいい年齢——おそらく三十代前半——だし、興味があるふりをする必要もない。でも、彼は将軍の味方をしたので、永久にブラックリスト入りした。大佐のオフィスで彼が見せた表情に、モーガンはとどめを刺されたのだ。
 そのときちょうど、パックスが混雑した店に入ってきて、モーガンは口を引き結んだ。目が合い、彼をにらんでから前を向いた。しまった。隣にいる水兵に話しかけていればよかった。右側の男は、臆面もなくモーガンの胸を見つめている。本物かどうか見きわめようとしている目つきだった。
 パックスが近づいてくるのを感じながら、うなじが期待でぞくぞくするのが気に入らない。彼になんか惹かれたくないのに。
「モーガン」パックスが隣に割りこんできた。
 モーガンは彼の目をまっすぐ見て訂正した。「ドクター・アドラーよ」悔しいけれど、半袖のボタンダウンシャツとズボンがよく似合っている。背嚢や装備やヘルメットを取っても、同じくらい大きく見えた。
 パックスが眉をつりあげた。「下の名前で呼んでいいと言ったろ」
「気が変わったの」
 太い眉がさがった。「理由を話したいか?」
 モーガンは彼がよく見えるよう体を引いた。スツールのすぐ近くの狭いスペースに立っているので、目を合わせるには見上げなければならないのが気に食わなかった。「別に」そう言ってスツールからおりると、ビリヤード台のほうへ行って、壁に寄りかかって退屈そうにしていた男性に話しかけた。
 パックスがモーガンの腕をつかんだ。「どういうつもりだ、モーガン?」
 モーガンは彼の手を振り払った。「あなたに批判される筋合いはないわ、パックス。わたしはあんなふうにめちゃくちゃ言われて育ったの。もううんざりよ」
 パックスが小首をかしげた。「きみの最低な父親の話か?」
「もちろん、わたしの——」モーガンは言葉を切った。「最低って言った?」眉をひそめる。「でも、あなたは父と同意見でしょ。わたしを臆病者だと思ってる」
「あんなむかつくやつに同意するわけないだろ。おれがきみのことを臆病だと思ってるだなんて、どうして考えたんだ? まったく、きみは爆弾が仕かけられた車に走って戻ろうとしたんだぞ」パックスが眉根を寄せる。「きみのことを臆病者だなんて全然思わない」
「でも、ジブチにいたくないの。帰りたいのよ」
「だからって、臆病者ってことにはならない。賢いってことだ。それがわからない人間だと思われるのは……我慢ならない」
「だって、わたしを怒った顔で見たでしょう。オリアリー大佐のオフィスで」
「ああ、あれはきみの父親に対して怒っていたんだ。どうかしてるよ」パックスはモーガンをふたたびスツールに座らせた。「おれを侮辱したお詫びに一杯おごってくれないか? 話をしよう」
 一杯のお酒では埋め合わせできないほど失礼なことをした。「ごめんなさい」モーガンはそう言って、バーテンダーに合図した。
 すぐに飲み物が出されると、パックスは含み笑いをした。「こんなに早く酒が出てきたのは初めてだ」モーガンの胸をちらりと見る。
 モーガンははにかんで微笑んだ。「強調すると得することもあるのよ。でも言っておくけど、CLUにこれしか着替えが置いてなかったの。わたしがサイズを選んだわけじゃない」
 パックスが鼻を鳴らす。「きみが妹なら、おれは武器を持ってきみに張りつくだろう」
「妹じゃなければ?」
 パックスはお酒をひと口飲んでから、紛れもない称賛のまなざしでモーガンを見た。いやらしい目つきではなく、その眺めを楽しんでいることがわかる。「同じことをする。別の武器(ウエポン)を持ってね(“ウェポン”にはペニスの意味がある)」
 モーガンは下腹部が熱くなるのを感じながら笑った。パックスなら助けてくれるかもしれない。彼に体を寄せ、純粋なテストステロンを示す麝香(じやこう)の香りを味わった。「パックス、このあと、わたしのCLUに来てくれる?」
 パックスがにやりと笑う。「時間を無駄にしないんだな、ドクター・アドラー」
「モーガンよ」ふたたび訂正した。「でも、あなたが思っているようなことじゃないの」
 パックスがセクシーな低い声で言った。「それは……残念だ」
 下腹部の熱が全身に広がっていく。「なら、わたしの気持ちを変えさせてみれば」