立ち読みコーナー
目次
740ページ
登場人物
エイミー・ベンセン(本名ララ・ブルックス)     24歳の女性。何者かに命を狙われている
チャド                       エイミーの兄。トレジャーハンター
ジア・ハドソン                   シェリダンに囚われたチャドを助けた謎の女
ジェリッド・ライアン                チャドの8年来の友人。天才ハッカー
フアン・カルロス                  偽ID作りを専門とする男
リアム・ストーン                  著名な建築家、資産家。エイミーの婚約者
テラー・フェルプス                 リアムが雇ったエイミーのボディガード
ココ                        テラーの知り合いの女性ボディガード
マーフィー医師                   リアムがエイミーの治療のために雇った女医
デレク・エスリッジ                 リアムの親友で裕福な不動産投資家
ジョッシュ・チェイス                電子機器会社CEO。リアムの長年の友人
ダンテ                       リアムのコンサルタント
シェリダン・スミス                 チャドの故郷のテキサスの町を牛耳る石油王
ローリン・スミス                  シェリダンの息子
メグ                        チャドがかつて付き合っていた女性
136ページ~
 シャワーに入ると、身体を流れ落ちる湯が、たった今感じていた笑いと欲望の奇妙な組み合わせを消し去り、無数の打撲の痛みを和らげてくれた。温もりが、疲れた肉体に沁み渡ってきて、ほっと大きなため息をついた。ああ、これだ。ずっとこれを待っていたんだ。
「そういう声を出すのはやめてくれない? でなきゃ馬鹿な歌でも歌って、あなたが裸だってことを忘れさせてよ」
 口元を歪めて笑った。「そういう声ってどんな声だ」
「恍惚の呻き」
 思わず満面の笑みになった。「おれは汚れにまみれるのが好きだが、たまにはそれを洗い流すのもいいもんだ」
「わたしを恥ずかしがらせようとしてるだけでしょ」
「きみとやれないんだったら、くそ面白くもない遊びでもするしかないじゃないか」
「あなた、『くそ』っていう言葉が好きね」
 おれはまた笑いながら、髪にシャンプーを泡立てる。「そのようだな」
「うちの父もそうだったわ。みんなそれを聞いて驚いてた」
「一流大学に、『くそ』って言葉はおよそ似つかわしくないからな」泡をすすぎながら答えた。
「名門校の名前に惑わされないで。所詮はテキサスだもの、ところかまわず思ったことを口にする貧しい白人青年たちだっていた。うちの父はそのうちの一人だったのよ。でも身なりや第一印象が洗練されてまともだったから、裏の顔を見せると、誰もがショックを受けたのよね」
 おれは湯を止め、シャワーカーテンを開けてタオルをつかむと、腰に巻きつけた。「つまりおれはくそ野郎ってことになるのか?」
 彼女はおれの半裸の身体には目を向けず、顔を見て笑った。「くそ珍しいやつだってことは間違いないわね。それでいてうちの父は、わたしがこの言葉を使うとショックを受けるのよ」
 おれはもう一枚タオルをつかみ、髪を乾かした。その言葉から彼女がどれほど父親を好きだったかが伝わってきてはっとした。過去を完全に捨て去るのは、ジアにとって難しいことになるだろう。たとえ彼女自身が未来を恐れず、過去を捨てる不安を否定していたとしても。おれはバスタブの縁にタオルをかけ、彼女のほうに向き直った。そしてジアが銃をつかんでいる上からその手を包み込んだ。「生き延びたいか?」
 彼女の瞳から愉快そうな光が消えた。「生き延びてみせる」