立ち読みコーナー
目次
696ページ
登場人物紹介
ララ・カーク                  彫刻家。ヘルガの娘
マイルズ・ダヴェンポート            コンピュータ・セキュリティの専門家
サディアス・グリーヴズ             実業家
デイビー・マクラウド              マクラウド兄弟の長男
コナー・マクラウド               マクラウド兄弟の次男
ショーン・マクラウド              マクラウド兄弟の三男
ケヴ・マクラウド                マクラウド兄弟の四男。ショーンの双子の弟
エディ・マクラウド               ケヴの妻
アレックス・アーロ               マイルズの友人
アナベル                    グリーヴズの部下
ジェイソン・フー                グリーヴズの部下
シルヴァ                    グリーヴズの部下
ミランダ                    グリーヴズの部下
ヘルガ・カシャノフ               科学者。ララの母親
ニーナ・クリスティ               ソーシャルワーカー
ヘレン・ダヴェンポート             マイルズの母親
ジョセフ・カーク                ララの父親
マチルダ・ベネット               ジョセフと一緒に働いていた女性
エイミー・スタッフォード            マチルダの孫
スティーヴ・スタッフォード           エイミーの夫
ケイ・ヤマダ                  ララの元ボーイフレンド
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 ドアがバタンと閉められた。光が遮断される。アナベルを怒らせてしまったから、今日は食事を与えられないだろう。激しい腹痛を感じた。
 この状況であとどれくらい持ちこたえられるだろうか。カロリーも睡眠も不足していて、光も浴びていない。薬がなんらかの損傷をもたらす可能性もある。あとどれくらいこれに耐えなければならないの? 数週間? 長くてそれくらいだろう。
 ベッドの上で胎児のように丸くなると、当然、真っ先に彼のことを考えた。情熱的だった頃の彼を思いだした。最後の逢引きのとき、彼は上半身裸で、大きな椅子にゆったりともたれてララを待っていた。部屋の様子はあまり覚えていない。彼のことしか目に入らなかったから。でも、美しい部屋だったのはたしかだ。シタデル王国にあるものは何もかもが美しかった。
 ララを見ると、彼の目は燃えるように輝き、飢えた表情が浮かんだ。彼は立ちあがって、ヒョウのごとく優雅に近づいてきた。ララは息が詰まり、脚をぎゅっと閉じた。切望のまなざしでうっとりと彼を見つめることしかできなかった。されるがままに壁に押しつけられた。
 キスをされ、舌が入ってきてうごめいた。彼のあたたかい大きな両手が、ララを巧みに愛撫した。彼に身をまかせたときのことを思いだすと、ララは歓びに震えた。体がとろけて骨抜きになった。
 彼はひざまずくと、ララが着ていた、ウェディングドレスにやけに似ている白い服の裾を持ちあげた。ララはシタデル王国を訪れるときはいつも、下着をつけていない。彼はいきなり茂みに顔をうずめ、指と舌でまさぐった。愛液を味わいながら、舌を深く差し入れたり、突起のまわりにぐるりと這わせたり、ああ……ララは膝の力が抜けるような甘い歓びを延々と与えられ、うめき声をもらした。それが前戯にすぎないのだ。本番が始まると……もうたまらなかった。
 薬の効果が切れて、現実に引き戻されると、体が震え、脚のあいだが濡れていた。永遠にあそこにいたかった。突然、ストレッチャーに拘束された体に戻り、激しく動揺しながら、アナベルの叫び声を聞いた。“どこへ行ってたの? まだ初回の投与なのよ、ばか女! ブロックの仕方なんて誰に習ったの?”
 彼らは我慢の限界が来たら、ララを殺すかもしれない。
 かびくさいウールの毛布を涙で湿らせながら、暗闇のなかでじっと横たわった。彼女のシタデルの王に会いたかった。いいえ、彼はララのものではない。それに、もうララを求めていない。
 メッセージを入力したのは大きな間違いだった。けれども、さびしくてしかたがなかったのだ。人との交わりに飢えていた。たとえ彼が空想の産物にすぎなくても、話してみたかった。
 でも、“心を開かなければ拒絶されることもない”というのが、ララの人生の方針だ。ここにいるあいだもそれを貫けばいい。自分を拒む空想の友人を作るなんて、たいしたものね。
 ララは笑った瞬間に後悔した。肋骨に響いて痛かった。ボーイフレンドと喧嘩した少女みたいに、ベッドの上で声をあげて泣いた。
 実のところ、彼に求められているかどうかは問題ではなかった。失礼な態度をとられてもかまわない。締めだせるものならやってみればいい。ララは薬を投与された瞬間に、誘導ミサイルのごとく王国へ戻るつもりだった。追い返したければ、彼はセキュリティを強化しなければならない。いますぐ行きたいけれど、自分の力だけではどうしようもなかった。トリップするには、あのいまいましい薬が必要なのだ。
 ララは自己嫌悪に陥った。たとえ自由を手に入れるためであろうと、薬にのめりこんでいる自分がいやだった。自由を手に入れて何をするのか。結局、薬から生みだされる性的ファンタジーを求めているのだ。
 寿命が尽きて、シタデル王国で死ぬことになるかもしれない。ネズミの巣やストレッチャーの上で旅立つよりずっといい。
 とっくの昔に希望は捨てた。ほしいのは慰めだけだ。
 自分はpsi‐max依存症のあばずれだ。