立ち読みコーナー
目次
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登場人物紹介
ミュアライン・カーマイケル       スコットランド領主の娘
ドゥーガル・ブキャナン         ブキャナン兄弟の次男
オーレイ・ブキャナン          ブキャナン兄弟の長男
ニルス・ブキャナン           ブキャナン兄弟の三男
コンラン・ブキャナン          ブキャナン兄弟の四男
ジョーディー・ブキャナン        ブキャナン兄弟の五男
ローリー・ブキャナン          ブキャナン兄弟の六男。治療者
アリック・ブキャナン          ブキャナン兄弟の七男
サイ・マクダネル            ドゥーガルたちの妹
アキール・ブキャナン          ブキャナン兄弟の叔父
グリア・マクダネル           サイの夫
モントローズ・ダンヴリース       ミュアラインの父親ちがいの兄
コナー・バークレイ           ミュアラインのいとこ
アルピン                グリアの従者
フェネラ・マクダネル          サイのいとこ
ボウイ…                グリアの側近
ベス                  ミュアラインの侍女
バハン・カーマイケル          ミュアラインの父親
コリン・カーマイケル          ミュアラインの兄。故人
ピーター・カーマイケル         ミュアラインの兄。故人
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 いくつもの小さな手でドレスを引っぱられているような気がして、ミュアラインはゆっくりと目覚めた。目を開けると木立に囲まれていた。眉をひそめて下を見る。ドゥーガルがひざまずいて、彼女の下半身に覆いかぶさっていた。困惑しつつそれに目をやってから、何をやっているのだろうと思ってさらに下を見た。たちまちぎょっとして悲鳴をあげ、じりじりと彼から離れはじめた。木と思われるものに両肩が当たるまでやめなかった。
 ドゥーガルは驚いて彼女を見るばかりで、追ってこなかったので、ミュアラインはかつてドレスのスカートだったずたずたの布を見て、ぞっとしながらきいた。「何をしたの?」
「それはこっちがききたい」
 ミュアラインが身をこわばらせて横を見ると、ミュアラインとドゥーガルがいる小さな空き地沿いのやぶから、半分抜け出した状態のコンランが立っていた。
「見つかったのか?」
「彼女は無事か?」
 これらの問いかけは、コンランの両側からやぶを抜けてこようとしているジョーディーとアリックが発したものだ。だが、目のまえの光景に、ふたりともいきなり足を止めた。目を見開いたかと思うとすがめ、こぶしをにぎりしめたが、まえに出ようとするふたりを、コンランが手を上げて止めた。
「まあ待て、どうしてレディ・ミュアラインの服を引き裂いて脱がしているのか、ドゥーガルが説明してくれるはずだ……ここにいるのは、自分の貞操を守るために勇敢にも城から逃げてきた、そしておれたちのかわいいサイを救ってくれた、すばらしいスコットランドのお嬢さんなんだからな」彼はにやにやしながら言い添えた。
「服を引き裂いて脱がしているわけじゃない」ドゥーガルはむっとして言うと、立ちあがってスキーン・ドゥをしまった。「ドレスでひもを作っているんだ」
 コンランはジョーディーとアリックの腕に手をかけて、引き止めていなければならなかった。ふたりが落ちついたと確信すると、ドゥーガルに目を戻して片方の眉を上げた。「それがレディ・カーマイケルのためになることとは思えないんだが」
「ああ、わかっている」ドゥーガルはそっけなく言った。「だが、おまえはおれをよく知っているからわかるはずだ。保護下にある女性を傷つけたりしないと」
 三人ともそれほど動揺しているようには見えないわ、とミュアラインは気づき、彼らに向かって顔をしかめた。そして、けわしい視線をドゥーガルに向けると、とげとげしく言った。「でもわたしはあなたを知らないから、どうしてわたしを切り刻んでいるのか、よかったら説明してほしいわ」
「ドレスを破いてしまって——わざとじゃない」途中まで言ったところで、また彼女の怒りが警報を発したので、彼はあわてて付け加えた。
「おれが見つけたとき、きみはまた気を失おうとしていた。地面に倒れるまえに抱きとめたが、野営地に戻ろうとしたら、ドレスが木の枝に引っかかっていた」ドゥーガルは言った。説明しなければならないことに腹を立てているように聞こえる。
 ミュアラインは少しほっとしてうなずいた。ドレスはたしかに引っかかっていた。
「はずそうとして引っぱったら」彼は顔をしかめて、ドレスの切れ端のほうを示した。「脇の縫い目が裂けてしまったんだ……その、かなり上のほうまで」彼はもごもごと言ったあと、こう指摘した。「そんな状態で野営地に連れて帰るわけにはいかなかった。わかるだろう?」
 明らかに修辞的疑問だった。ドゥーガルは答えを待たずにつづけたからだ。「だから地面に寝かせて、破れたところの両方の端を結んだ。だが、ドレスの脇はまだ足首から上があいたままだったから、なんとかしようと思った」
「切り刻むことで?」彼女は信じられずにきいた。
「ちがう」彼はかみつくように言った。「両側のまんなかあたりをひも状に切って、それも結び合わせようと思ったんだが、それでもまだかなりあいていたから、何カ所かで結ぶつもりで縫い目に沿ってひも状に布を切っていた」
 ミュアラインは均等に切り取られたドレスの布を見て、悲しげに首を振った。ジョーンが初めて会ったときにくれた生地で作った、お気に入りのドレスだったのに。ほつれた布地に触れながら悲しげに言った。「わたしの意識が戻るまで待ってくれていたら、ドレスを救えたかもしれないのに」
「だが、そんな格好のきみを運ぶわけにはいかなかったんだ」ドゥーガルは眉をひそめて言った。「それに、意識が戻るのを一日じゅう待っているわけにもいかなかった」
 ミュアラインはむっとして指摘した。「一日なんてかからないわよ」
「そうは思えなくてね」彼はいらいらと重心を変えながらつぶやいた。「昨日最初に気絶したときは午後じゅう目覚めなかったし、二度目は夜じゅうだった」
「ちがうわ」彼女はすぐに否定して立ちあがった。まえかがみになって、布の切れ端を結び合わせながら説明する。「ここまでの旅のあいだに何度か目覚めたけど、あなたがあんまりぎゅっと抱き寄せるから空気が吸えなくて、そのたびにまた気を失っていたのよ」
「だが、昨夜はずっと気を失っていたぞ」コンランが静かに指摘した。
「だって、昨日の朝から何も食べていなかったんだもの」彼女は作業から目を上げずにもごもごと言った。「疲れと空腹のせいで夜じゅう眠っていただけで、ずっと気絶していたわけじゃないと思うわ」
「ほら、やっぱり!」アリックが叫んだ。「それで気を失ったんだよ。空腹だったから」
「野営地に戻ったら何か食べさせてあげよう」コンランがつぶやき、ミュアラインの横にひざまずいて、布切れ結びを手伝いはじめた。すぐにジョーディーとアリックも加わった。ミュアラインは彼らから逃れようと体を起こしたものの、自分の脇に群がって、兄が作った切れ端を結ぶ三人の男たちをなすすべもなく見つめた。
「やれやれ!」と突然つぶやいて、ドゥーガルは大股で歩み寄ると、弟たちを追い払った。そして、ドレスの無傷な側が表になるように、脇が切れ端になっているほうからミュアラインを抱きあげ、下生えのなかを歩きはじめた。