立ち読みコーナー
目次
440ページ
登場人物紹介
サイ・ブキャナン          スコットランドの令嬢
グリア・マクダネル         マクダネルの現領主
フェネラ・マクダネル        マクダネルの前領主アレンの未亡人。サイのいとこ
アルピン              グリアの従者
オーレイ・ブキャナン        サイの長兄
ドゥーガル・ブキャナン       サイの二番目の兄
ニルス・ブキャナン         サイの三番目の兄
コンラン・ブキャナン        サイの四番目の兄
ジョーディー・ブキャナン      サイの五番目の兄
ローリー・ブキャナン        サイの六番目の兄
アリック・ブキャナン        サイの弟
アレン・マクダネル         マクダネルの前領主。フェネラの四番目の夫
ティルダ・マクダネル        アレンの母親
ヘイミッシュ・ケネディ       フェネラの最初の夫
コーネル・マッキヴァー       フェネラの二番目の夫
ゴードン・マッキヴァー       フェネラの三番目の夫。コーネルのおい
ジョーン・シンクレア        サイの親友
エディス・ドラモンド        サイの親友。アレンのいとこ
ミュアライン・カーマイケル     サイの親友
モントローズ・ダンヴリース     ミュアラインの兄。カーマイケルの領主
50ページ~
 視界の隅に動くものを感じ、階段のほうを見ると、ひとりの女性がおりてくるところだった。小柄な曲線美の体にダークグリーンのドレスをまとったその女性は、足で踏むのではなく、浮かびながら階段をおりているように見えた。ハート形の顔を縁取るようにおろした、自然のままの黒っぽい巻き毛に視線を走らせ、弓形の唇とあざやかな緑色の目に気づくと、グリアは息が止まるのがわかった。
 女性は、グリアが若いころベッドに横になり、毛皮の下で自身をもてあそびながら想像した、幻の恋人にそっくりだった。その恋人が自分にまたがったところを想像した記憶がよみがえる。彼女が恍惚として頭をのけぞらせると、長い髪が肩にこぼれて乳房が半ば隠れ、一度二度と突きあげるたびにその乳房が弾み、三度目に突きあげたところで興奮が先走ってしまったものだった。若かったので、想像上の行為だというのにあっけなく果ててしまった。幸いなことに、今ではだいぶましになっている。少なくともグリアはそう思いたかった。だが、夢の女性が階段をおりきって広間を横切り、こちらに向かいはじめるのを見ると、少年時代の夢のなかの女性が相手のときよりも、実際に肉体を持つこの女性を相手にしたときのほうがもっとずっとうまくやれるとはかぎらない気がしてきた。
「レディ・サイがいらしたわ」
 おばに告げられて、グリアは目をすがめた。つまり彼女が、フェネラの親戚で、モントローズ・ダンヴリースが帰路の途中でここに立ち寄る言い訳に利用した女性なのだ。そして自分は、彼女を泊めるべきか行かせるべきか、決めなければならない。
「滞在してもらいましょう」グリアはどなるように言うと、いきなり立ちあがってテーブルをあとにした。
「グリア? どこに行くの?」おばが驚いて尋ねた。彼に見捨てられて少し傷ついたようでもあったが、グリアは速度をゆるめなかった。ゆるめることができなかった。プレードの下の丸太は、今やミリーに森のなかでいじられたときよりも大きくなっていたからだ。あの女性を見ただけでこの状態なのに、実際に話をしたらどうなるのだろうと思うと体が震えた。立ち去らなければならない……そして、プレードを突きあげている獣の世話をしなければ。きっとミリーが手伝ってくれるだろう。目を閉じて背後から彼女を奪えば、レディ・サイに突き入れているのだと思うことができる。
 そう考えただけで彼のものはさらに硬くなり、皮膚が痛いほど引き伸ばされて、睾丸が不快なほど縮んだ。まずいな、とグリアは急いで城の外に出ながら思った。もしかしたら彼女の滞在を拒否するべきだったのかもしれない。なんといっても彼女は貴婦人(レデイ)で、快楽を得るために利用したら送り返せる、商売女や世のミリーたちのような人物ではないのだ。
 ミリーといえば、と思いながら顔をしかめたとき、突然本人が目のまえに現れた。両手を腰に当て、胸を突き出して、好色そうな笑みを浮かべている。
「だんなさま」彼女はそうささやいて近づいてくると、プレードのまえをまさぐっていきり立ったものを見つけ出し、信じられないというように目を見開いた。「あらまあ、だれかさんはあたしの世話が必要なようですね」
 彼女は体を起こし、キスしようとつま先立ちになったが、気づくとグリアは身を引いていた。さっき別れたあと侍女はタマネギを食べたらしく、ひどく息が臭かった。それに顔も汚れていた。あごと頬と額に黒い汚れがついている。髪もとても清潔とはいえず、レディ・サイのように頬のまわりにやわらかくたれるのではなく、だらりと肩にかかっていた。唯一よかったのは、その外見の組み合わせがグリアの体に鎮静効果をもたらしていることだった。火にくべられそうだった丸太は今や大きさが半分になり、なおも縮んでいた。
「どうしたんです?」ミリーが眉をひそめてきいた。
「なんでもない」彼はそう言って安心させると、体から彼女の手をそっとはずした。「しなければならないことがあるだけだ。あとで話そう」
 グリアは侍女の肩をたたき、馬を連れてこようと厩に向かった。湖に浸かれば、熱くなった血も完全に冷めるだろう。ミリーと同じくらい汚れているなら、体がきれいになるという利点もある。傭兵として何年ものあいだ土ぼこりの道を歩き、泥だらけの空き地で眠り、同じくらい汚れた尻軽女や商売女たちのスカートをまくりあげてきたグリアは、汚いのに慣れていた。だが事情は変わった。もう食べ物と寝る場所を確保するために剣を振るわなくてもいいのだ。今では領主で、城もベッドも風呂もある。これからは風呂を使い、ベッドで眠り、本来の領主らしくふるまうべきなのだろう。そうすれば、求婚とやらをして、レディ・サイのようにかわいらしく繊細なレディの妻を娶ることができるかもしれない。