立ち読みコーナー
目次
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登場人物紹介
キャロライン・デラメア             伯爵令嬢
フィリップ・アルマンド・モンカーム       侯爵家の次男
フィオナ・レイバーン              キャロラインの親友
ジェームズ・ウェストブルック          フィオナの婚約者
ジャレット・デラメア              キャロラインの兄。キーンズフォード伯爵
ルイス・バンブリッジ              キャロラインの許婚
ハロルド(ハリー)・レイバーン         フィオナの兄
セオドア・アプトン               事務弁護士
ミセス・フェリディ               キャロラインの侍女で母方の親戚
ユージニア・ウォーリック            フィリップの元愛人
トビアス・モンカーム              フィリップの父親。インスブルック侯爵
オーウェン・モンカーム             フィリップの兄
ジュディス・モンカーム             フィリップの伯母
ギデオン・フィッツシモンズ           フィリップの友人
ミスター・ペニー                ジャレットの事務弁護士
ヘレン・デラメア                キャロラインの母親。故人
カール・ヘレスマン               ヘレンの父親。故人
フレデリック・マクラーレン           ヘレンの元恋人。ジュディスの友人
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 フィリップはふたたびキャロラインにキスをし、器用な手つきで彼女のカールした髪をまさぐり、残っているピンをはずしていった。一本、また一本とピンがはずされ、豊かな髪が滝のように背中に広がる。悦びに息もつけず、今にも気を失いそうなキャロラインに、意地悪なフィリップは今度は唇から喉元にキスの雨を降らせた。彼のキスは官能的で心地よく、唇や舌で今まで存在するとは知らなかった首筋の繊細な部分をなぶられると、たまらなく快感を覚えた。けれどもそれだけでは、身体の奥で疼く欲求は満たされなかった。もっともっと欲しい。肌と肌をじかに触れあわせたい。なににもへだてられずに、彼の全身をこの身に感じてみたい。
 キャロラインはフィリップの上着の下に手を滑りこませて、肩から脱がせようとした。フィリップが顔を上げた。「レディはなにをお望みかな?」身体を離して、問いかけるようにキャロラインを見下ろす。
 彼女は笑いたいのか叫びたいのか、わからなかった。フィリップはとことんわたしをいたぶるつもりだ。どうすればいいかわからないので、彼のおふざけにつきあうしかない。
「その上着を」キャロラインは精一杯、高慢な口調で言った。
 フィリップは袖に目をやった。「なかなかの上等品だろう? ぼくのお抱えの仕立屋は最高の——」
 「脱いで! 」キャロラインはもどかしげに足を踏み鳴らした。「今すぐ!」
 フィリップはキャロラインの子供じみたかんしゃくに目をみはった。「本当に? じゃあ仕立屋にはあとできみが気に入らなかったと言っておこう」彼は上着を脱ぐと、近くの肘掛け椅子にかけて、キャロラインの前に立った。「つぎはなにをお望みでしょう?」
 わたしの望み? キャロラインは獅子を思わせる金色の髪からブーツのつま先まで、フィリップの全身を眺めまわした。男性の肉体とその器官については、多少の知識がある。少女の頃、フィオナが兄の部屋にあった驚くほど詳細な図解つきの本を、何冊か持ってきたのだ。ブリーチズに覆われた硬いふくらみは、フィリップがわたしに欲情しているあかしに違いない。それなのに彼は、離れたところに立って、先をじらしてばかり……。
「クラヴァットを」キャロラインは命令した。「ベストとシャツも」
「これがどうかしたのかい?」フィリップがたずねる。「ちゃんと教えてくれないとわからないよ」
 まさかわたしに脱がせてくれと言っているの? 本気かしら? キャロラインは喉が渇き、太腿のあいだに熱い興奮が広がるのを感じた。手をのばして、フィリップのクラヴァットのきわめて複雑な結び目をほどきにかかった。もどかしさに頰が熱くなる。少女時代に、男性とのふたりきりの場面をいろいろと想像してみたものだ。フィオナが持ってきた本で多少の知識は得られたものの、服を脱ぐ場面までは考えが及ばなかった。ちゃんと学んでおけば、こんなに不器用なところを見せずにすんだのに。結び目をほどこうと夢中になるあまり、疼く胸が彼の胸にこすれて、甘く狂おしい感覚が走った。ようやく結び目がほどけると、糊の利いたリネンの布を彼の首から取り去った。フィリップは眉を上げてキャロラインを見下ろし、うなずくと、いきなり両手で彼女のお尻をつかんでつま先立つほど引き寄せ、自分の腰に押しつけた。
 わざと荒々しく腰をまわしながらこすりつける。キャロラインは悦びに包まれ、うめき声をもらしてフィリップに身を預け、破れんばかりにシャツを握りしめた。
「ほかには?」彼がささやく。「キャロライン、ぼくになにをさせたい?」
 キャロラインの手にフィリップの付け襟が触れ、彼女はそれもはずして投げ捨てた。彼は腰をこすりつける動きをやめようとしない。快感がふくれあがり、下腹部から四肢にまで広がった。フィリップの円を描くような容赦のない腰の動きと、茶目っ気のある熱いまなざしが、快感をいっそうつのらせる。彼は自分のしていることを正確に心得ている。これもまたフィリップ独特の悪ふざけなのだ。わたしをとまどわせ、うめき声をあげさせようとしている。キャロラインは歯を食いしばり、彼のベストの銀色のボタンをはずすことに集中した。
 フィリップがされるがままなので、キャロラインはベストを脱がせ、彼の背後に落とした。
「今度はどうする?」フィリップがたずねる。
 耐えがたいほど欲情し、キャロラインはもどかしくてたまらなかった。この滑稽なゲームを早く終わらせてほしい。ゲームの終わりがなにを意味するとしても。ブリーチズのウエストに手を入れ、すらりと引き締まったその腰に触れる。彼はなにも手を貸そうとしないので、シャツの裾をくしゃくしゃに引っ張りだした。そこでフィリップはからかいの笑みを浮かべるという過ちを犯した。欲情のあまり頭がどうにかなりそうだった彼女は激高した。彼はおとなしく自分でシャツを脱ぎはじめた。さんざんじらされたキャロラインは、今までは知らなかった奔放な魔物が自分のなかで目覚めるのを感じた。
 フィリップが腕を前にして身をかがめたので、彼女はシャツを頭から引っ張って脱がせ、ベストの上に放り投げた。
 そして目をみはった。
 フィリップ・モンカームがブリーチズとブーツだけの姿で目の前に立っている。こんなに美しい男性を今まで見たことがあっただろうか? いいえ、わたしをあの手この手で悦ばせ、笑いといらだちに身もだえさせるこの人が初めてだ。本当になんて見事な肉体なのだろう。広い胸板に逞しい筋肉がつき、肌は小麦色をしている。ランプの明かりにきらめく金色の胸毛に覆われた褐色の乳首は硬くなっている。腹部は平らに引き締まり、ブリーチズの前に彼の秘密の部分の輪郭がくっきりと浮きだしているのが見えた。
「わがレディが楽しみたがっているゲームがわかってきたぞ」フィリップはさりげない口調で言ったが、声には危険な欲望がにじんでいた。キャロラインは愛撫をされたときのようにぞくりとした。「今度はぼくの番だ」
 キャロラインがクラヴァットをほどくのにあれほど苦労したというのに、フィリップはいとも簡単にドレスのサッシュをほどいてしまった。「これはあとで使おう」そう言うと、彼はシルクの紐を彼女の腰から抜き取り、ベッドの上に置こうとして、はっと口をつぐんだ。キャロラインはそこに昨夜の長手袋を置いていたのだ。彼が微笑むと、その熱い欲望のまなざしに肌が火照るのをキャロラインは感じた。フィリップは飾り帯を長手袋の横に置き、彼女のショールを脱がせて足元に落とした。
 ドレスは緑色のモスリンでクリーム色のレース飾りのついた、胴部分をリボンで締める清楚でひかえめなデザインだった。それにもかかわらず、フィリップに見つめられると、キャロラインは裸になったような気がした。彼のマントの滴で湿ったドレスの生地が胸に張りつき、形をくっきりと浮き立たせている。フィリップはあからさまにそれを見つめた。
「美しい」ささやくように言う。「美しいキャロライン」