立ち読みコーナー
目次
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主要登場人物紹介
イリアナ・ワイルドウッド    イングランドの男爵の娘
ダンカン・ダンバー       ダンバー氏族の領主の息子
アンガス・ダンバー       ダンバー氏族の領主。ダンカンの父
ショーナ            ダンカンの妹
アリスターとイルフレッド    ダンカンのいとこ。双子の男女
レディ・ミュリエル       ダンカンの亡き母
グリーンウェルド        財産を狙いイリアナの母と結婚した男爵
レディ・ワイルドウッド     イリアナの母
エバ              イリアナの侍女
ロルフ卿とウィカム司教     イングランド王リチャード2世の使者
ギリー             鍛冶屋
ギルサル            ダンバー城の召使い監督係
ジャンナ            ダンバー城の女性召使い
エルジン・カミン        ダンバー城の料理長
ラビー             ダンバー城の厩舎頭
イアン・マクイネス       隣国の領主の息子。ダンカンの友人
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 意外にも柔らかなダンカンの唇は、彼女のなかの何かを呼び覚ました。
 体の奥にわきあがる未知の感覚が怖くなり、イリアナは彼の胸に手を押しあて、キスから逃れるように唇を開いた。だが、口を開くなり、ダンカンの舌が侵入してきた。彼女ははっと息をのんだ。気がつくと、夫を押し戻すはずの手が、彼のむきだしの肩を引き寄せていた。脚から力が抜けていく。
 妻の反応を感じとり、ダンカンはほほえんで体の緊張を解いた。鍵に一歩近づいたという手ごたえがある。数分もすればイリアナのほうから、秘めた場所の錠をはずしてと懇願するようになるだろう。手を彼女の腰の両側にあて、その手を上へと滑らせて、ドレスの上から胸のふくらみを包みこむ。イリアナは一瞬びくりとしたが、やがて小さくうめいた。ダンカンは優しく胸を愛撫しながら、一方の手でヒップをつかんで自分のほうへ引き寄せた。今回はかたいものが肌にあたっても腰を抜かしたりはしなかった。今では貞操帯なる障害物があるのだとわかっている。逆にそれを楽しみながら、ドレスを脱がせにかかった。キスと愛撫がどんどん大胆になっていることから、彼女の気をそらすように。
 ドレスを手早く肩から脱がせ、丸めるようにして腰からはいだ。ドレスが衣擦れの音をたてて床に落ちる。ダンカンはベッドまであとずさりしていき、イリアナを抱えあげてベッドの端に座った。そして彼女を膝にのせてキスを続けながら、今度はアンダードレスの紐をほどきはじめた。すぐにアンダードレスも肩から脱がせ、あらわになった肌に手を滑らせる。豊かな胸の重みをしばし楽しんだあと、親指でその頂を探りあて、もてあそんだ。だが、それでも飽き足らず、いったんキスを中断した。
 唇が離れた瞬間、イリアナはぱちりと目を開け、自分が半裸でダンカンの膝の上に座っていることに気づいた。腰のあたりにアンダードレスが丸まっている。たちまち、頭のなかで警報が鳴った。夫の唇がむきだしの胸の先端を覆う。彼女は驚いて声をあげたものの、かつてない感覚に――これまでダンカンにかきたてられたものよりさらに熱く激しい感覚に、抵抗することも忘れてしまった。
 胸の頂を吸われると、イリアナはあえぎ、震えながら彼の頭を両手でつかみ、自分のほうへ引き寄せた。背中にまわされた腕に体を押しつけ、ダンカンの膝の上で身をよじらせる。彼の手がアンダードレスの下から脚を這いあがってきたが、厚い革のベルトにあたってとまった。それでも一本の指はその下をくぐって脚のあいだへと迫っていく。イリアナははっと顔をあげた。
 ダンカンはすばやく唇で彼女の唇を覆い、抗議の声を封じた。指は相変わらず革と肌の狭間を這っている。イリアナの湿り気とぬくもりを感じ、うめきながら、彼女の興奮をさらに高めたくて愛撫とキスを続けた。
 イリアナは爆発寸前だった。愛撫を受ける脚はこわばり、ダンカンの髪をつかむ手に力が入る。胸の先端は欲望のあまりかたくなっていた。心の一部はやめてと叫んでいる。その一方で、今やめられたら死んでしまうと思う自分がいる。あえぎながら彼の首筋に鼻を押しつけたが、ふと不快なにおいがめくるめく興奮のなかにまじってくるのを感じ、あわてて顔をそむけた。
「いとしい人」唇が離れると、ダンカンはささやいた。
 聞こえていないのか、イリアナは貞操帯を押しつけるようにして身をよじっている。
「いとしい人」
「え?」
「きみを悦ばせたい」彼は荒い息をしながら言った。
「悦ばせる?」
「そうだ。ちゃんとした形で悦ばせたい」
「ちゃんとした形で?」
「そう。だから、鍵がいるんだ」ダンカンは耳もとでささやいた。それから妻の表情を見ようと、わずかに身を引く。彼女の瞳にあった情熱は、太陽の日ざしを受けた霧のように消えかけていた。
「それは……」イリアナが口ごもる。
 ダンカンはふたたび彼女を引き寄せ、無我夢中でキスをした。少しばかり早まったようだ。もう少し待つべきだった。そう自分をしかりつけ、消えかかった炎を再燃させようと必死にキスと愛撫を続けた。イリアナは反応するでもなく、抵抗するでもなく、じっとされるがままになっている。迷っているのは明らかだ。
 彼はやむなくもう一度キスを中断し、向きを変えて妻をベッドに横たえた。すぐにその上に覆いかぶさり、ふたたび唇を重ねながら、片方の脚を彼女の脚のあいだに滑りこませ、開かせようと試みる。
 イリアナは意識をはっきりさせようとしたが、ダンカンの唇と肌に押しつけられた裸の胸の感触を無視するのは難しかった。彼のたくましい胸板が、ぞくぞくするような快感を呼び起こす。やがてダンカンは唇を離すと、首筋に沿って下へとキスをしていき、豊かな胸にたどり着いて片方の先端を吸った。もっとも軽くじらすような愛撫をしただけで、彼女があえぎ声をもらすと、唇を下腹部へと滑らせていった。
 アンダードレスにさえぎられ、ダンカンは顔をあげて、布地を腰の上までめくりあげた。それからまた頭をおろし、貞操帯の上あたりの感じやすい肌を軽く嚙んだ。手を妻の体の下へ持っていき、両のヒップを包みこむ。
「あ……いや」イリアナはあえぎ、激しく身もだえした。そのくせ、ダンカンが唇を離すと、抗議するようにうめいた。ところが次の瞬間、腿の内側を軽く嚙まれ、彼女はベッドの上で激しく頭を振った。信じられないくらい脈が速い。このままでは死んでしまいそうだ。ダンカンが指をまた革のベルトの下へもぐりこませる。イリアナは本気で死ぬと思った。
 マットレスに踵をくいこませ、無意識に腰を突きだす。自分が何を求めているかわからないまま、こうすればきっとほしいものが手に入るという、内なる声に導かれていた。愛撫に意識を集中していたので、唇の動きがとまったことにはほとんど気づかなかった。やがてダンカンの唇は体を這いのぼってふたたび彼女の唇をとらえた。
 イリアナは夫のほうに顔を向けると、今度は彼の舌を受け入れ、自分の舌を絡ませた。愛撫を促すように体をそらす。やがてダンカンは唇を離し、耳たぶを嚙みながらささやいた。
「気持ちいいかい?」
 イリアナは夢中でうなずいた。
「おれもだ」彼がまたささやく。「だが、きみにもっと満足してほしい」
「満足してほしい?」
「ああ。きみの体が求めているものを与えてあげたいんだ。感じるだろう? 花が太陽の光を求めるように、体が何かを求めるのを?」
「ええ」夫が二本目の指をベルトの下に滑らせ、秘所を優しく刺激すると、イリアナはあえぎ、体を弓なりにそらした。「ええ、求めているわ。お願い」
「無理だ」
「無理?」失望もあらわな口調だ。
「できないんだ。鍵がなければできない」
「でも……」
「残念だが、できないんだ」ダンカンがささやいた。「きみが鍵をくれないことには」
「鍵?」
「どこにある?」
「何が?」
「鍵だよ」
「それは……ああ」イリアナはあえいだ。全身が情熱に打ち震えていた。今感じているもの以外のことに意識を向けるのは難しかった。だが、ダンカンがさっきから何やら繰り返している。なんのことだったかしら? 彼女は高まる情熱を無視して、気持ちを集中させようとした。
「鍵はどこにあるんだい?」
「ああ、そう、鍵だったわね。鍵は――」