立ち読みコーナー
目次
568ページ
登場人物紹介
ケイト・ジョンソン              元KTTLテレビの調査報道リポーター
ヘイデン・リード               FBI特別犯罪捜査チーム〈使徒〉の一員
ジョセフ・バーナード(スモーキー・ジョー)  ケイトが世話をしている退役軍人
シェイナ・トーマス              〈惨殺犯〉に殺された女性リポーター
ロッティー・キング              コロラド・スプリングス警察の女性巡査部長
パーカー・ロード               FBI〈使徒〉のリーダー。ヘイデンの上司
ハッチ・ハッチャー              FBI〈使徒〉の一員。交渉の専門家
エヴィー・ヒメネス              FBI〈使徒〉の一員。爆発物の専門家    
マリッサ                   ヘイデンの元妻
メイブ                    マリッサの母。ヘイデンの義理の母
ジェイソン・エリクソン            ケイトの弟
ダニエル・グレイ               ジェイソンが通っていた診療所の医師
ロビン・バンクス               女性リポーター。ケイトの元同僚
マイク・マルドゥーン             ロビンの夫
カイル・ワトソン               〈希望学園〉学園長
ベス・ワトソン                〈希望学園〉副学園長。カイルの姉
アンドリュー・トローブリッジ         〈希望学園〉の医師
グレッグ・ビュルナー             自動車整備士
チャーリー・ハンキンズ            ドラド・ベイに住む少年
ベニー・ハンキンズ              チャーリーの弟
85ページ~
「今夜はどうするの?」
 彼が鍵をさしこんでまわすと、手錠がかちりとひらく。「ぼくらはここにとどまる」
「ぼくら? あなたはここで寝るつもりだってこと?」
「いや、ここで仕事をするつもりだ」手錠はするりとはずされたが、彼の指はこちらの手首をつかんだままだ。「やるべきことが山ほどあるからな」
 ケイトはぱっと立ちあがった。「だけど――」
「保安官事務所の連中を呼んで、見張りに立たせるほうがいいか?」
 リード捜査官の手をふりはらおうとしたが、彼が指に力をこめる。その金色の枷(かせ)は、鍛えた鋼よりも頑丈だった。手際のいい捜査官はもうたくさんだ。「いいわ。ここで仕事をするのね。もし疲れたら、玄関の戸棚に枕と毛布が入っているから」彼がようやく手を放してくれたので、階段をのぼってロフトに向かう。しかし、背後で足音がしたため、くるりとふりむいて相手をにらみつけてやった。「本当についてくる必要があるの?」
 リード捜査官が両眉をつりあげて応じる。彼がベッドの下やクローゼットやひきだしを調べるあいだ、ケイトは腕組みをして戸口に立っていた。ロフトの屋根の近くにある小さなガラス窓を、彼がぐいとひっぱる。
 ケイトはいらだちのため息を漏らした。「馬鹿ね。〈惨殺犯〉が、その窓から入ってこられるわけがないでしょう」
「ぼくが案じているのは、誰かが入ってくることじゃない」まったく、なんていまいましい目なのかしら。「断言しておくよ、カトリーナ。ここを離れようとしたら、きみを手錠でベッドにつないでやるからな」
 リード捜査官の顔に浮かんだ、耐えがたいほど自信に満ちた表情を、ぶんなぐって消し去ってやりたい。でも、それは彼の世界でのやりかただ。彼は支配権を手放さないだろう。何事にも動じないのだから。
 あら、そう? こちらがキッチンでオーバーシャツを脱いだとき、リード捜査官の目がきらめくのが見えた。彼はスーパー捜査官だが、ひとりの男でもある。
 ケイトは腕組みを解いて、オーバーシャツをするりと脱いだ。唇にかすかなほほ笑みを浮かべ、シャツを床に投げだして、キルトのベッドカバーの上にのる。そして、太腿から胴体へと指を滑らせていき、最終的には、真鍮製のヘッドボードに両手をあげた格好になった。「ぜひとも、手錠でこのベッドにつないでほしいわ」そう言って唇をなめる。「お願ぁい」
 リード捜査官が、上半身全体をこわばらせた。肩もあごも手もこわばっているのが見える。彼がネクタイをなでた――まるで、そのシルクの生地に散らばった黄色やオレンジ色のあざやかな斑点を、まっすぐに並べようとするみたいに。彼の視線が、こちらのはだしの爪先から脚へと、なめらかにあがっていく。視線が胸のあたりに長くとどまり、やがて手首にたどりつくと、予想外のぞくぞくするような感覚が、体の中心部分を駆けめぐった。リード捜査官が小さく息をのむ。心など読めなくても、彼は〈惨殺犯〉のことを考えているのではないとわかった。
 ヘッドボードに両手をあげたまま、彼に向かって指をひらひらさせてやる。
 彼は目をしばたたき、一歩あとずさった。