立ち読みコーナー
目次
624ページ
登場人物紹介
ニコラス(ニック)・ドラモンド     FBI特別捜査官。英国貴族
マイケラ(マイク)・ケイン       FBI特別捜査官
ジョナサン・ピアース          古書店経営者。レオポルド・ロートシルトの孫
ソフィー・ピアース           ジョナサンの娘
アダム・ピアース            ソフィーの弟。天才ハッカー
マンフレート・ハフロック        科学者
ヴォルフガング・ハフロック       マンフレートの父親。<オーダー>のメンバー
アルフィー・スタンフォード       英国の財務大臣
オリバー・レイランド          イングランド銀行頭取
エドワード・ウェストン         MI5のナンバー2
アレックス・グロスマン         レストラン経営者
ウィリアム・ピアース          <オーダー>の初代リーダー。チェンバーズ子爵
ヨーゼフ・ロートシルト         <オーダー>のメンバー
レオポルド・ロートシルト        ヨーゼフの息子。ウィリアムの養子
ディロン・サビッチ           FBI特別捜査官
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 ニコラスは男の頭を乱暴に後ろへ引いた。「よく聞け、われわれは連邦捜査官だ。いったい全体(ブラツデイ・ヘル)なんの真似だ? なぜミスター・ピアースを殺した?」
 冷笑、そして沈黙。
 マイクが割って入る。「連邦捜査官をテーザー銃で攻撃したでしょう。ばかね、そんなことをしたら、もう誰も一緒に遊んでくれないわよ。今すぐ名前を言いなさい。ミスター・ピアースを殺した理由もよ。あの人と何を言い争ってたの?」
 ミスター・オリンピックは歯をむきだしてにやりと笑うつもりだったのだろうが、そうはならなかった。
 マイクが言った。「財布はなし、身分証明書もなし。でもシステムで照会すれば、一時間以内に身元が割れる。今のうちに白状したほうが身のためよ」
「さあ、ばかな真似はよせ。名前は?」
 男は口を開いたが、言葉はひとつも出てこなかった。目に恐怖の色が浮かび、それが鋭く冷たいパニックに変わり——男は白目をむいた。体を硬直させ、口から白い泡を吹いて、ニコラスの上に崩れ落ちた。
 マイクが大声で無線機に向かって叫んだ。「救急隊を呼んで、急いで」ニコラスはずり落ちる男を歩道に寝かせた。マイクが脈を取り、心肺蘇生(しんぱいそせい)に取りかかったが、ニコラスが引き戻した。
「やらせて。死なせるわけにはいかないわ」
「手遅れだ」ニコラスは言った。男の顔はすでに青くなり、黒い瞳がぼんやりとふたりを見つめ返していた。何度か筋肉をひくつかせたのを最後に、男は動かなくなった。
 居合わせた見物人がぐるりとまわりを取り囲んだ。死を目の当たりにして色めきたち、震えあがっている。ニコラスを轢きそうになったニューヨーク市警の巡査が慌てて駆け寄ってきた。歩道に横たわる男を見る。「何があったんですか? はねてはいないはずですが。この男はどうしたんです?」
「はねられたわけじゃない、そうじゃないんだ」ニコラスは答え、マイクに言った。「男を頼む」立ちあがって、IDカードを高く掲げてFBI捜査官であることを群衆に告げた。続いて後ろにさがるよう命じ、ここが犯罪現場であることと、すべては終わり、ほかに見るものはないことを説明した。
 マイクが巡査に言った。「どういうことかわからないわ。この男を追っていて——ウォール・ストリートで男性を殺した犯人なんだけど、いきなり倒れたの。なぜかしら。死なせまいとしたんだけど」
 ベン・ヒューストン捜査官が男の脇にクラウンビクトリアを停め、飛びだしてきた。死んだ男をひと目見て言った。「どうしたんだ? 男に何をした?」
 ニコラスは群衆が再び近づいてきていることを意識しながら、ベンに答えた。「何も。ようやく捕まえたと思ったら、体をこわばらせて口から泡を吹いた。いずれにしろ、ミスター・オリンピックが自分でしたことだ」
「ミスター・オリンピック? つまり、男が歯のなかに青酸カリを仕込んでいたとでもいうのか?」
「おそらく。青酸カリとは限らないが、口のなかに即効性の毒物を入れていたんだろう」ニコラスは男の青い顔を見て眉をひそめた。「だが、なぜ自殺する? いったいどういうことだ?」
 その質問に答えはなかった。マイクがベンに言った。「この男の身元を大至急割りだして。ニコラスの言うとおり、これは普通じゃないわ。何か厄介なことが起きてる可能性がある」
 ニコラスは言った。「どうしてさっさと逃げなかったんだろう」ミスター・オリンピックを見おろす。「なぜだ?」