立ち読みコーナー
目次
400ページ
登場人物紹介
エマリーヌ(エマ)       エバーハート公爵夫人
アマリ・ド・アネフォード    傭兵団を率いる騎士
ロルフ・ケンウィック      エマのいとこ
フルク             エマの最初の夫。エバーハート公爵
バートランド          フルクのいとこ
レディ・アスコット       バートランドの母親
セバート            エバーハート城の家令
モード             エマの侍女
ブレイク・シャーウェル     アマリの親友。ともに傭兵団を率いる騎士
オールデン           アマリの従者
リトル・ジョージ        アマリの筆頭家臣
デ・ラセイ           仕立屋
ギザ              お針子
シルヴィー           お針子
リチャード二世         イングランド王
アランデル大司教        大法官
ウィカム司教          前の大法官。エマの結婚式を執り行う
294ページ~
「どこへ行くの?」周囲の木々が密になってくるとエマは尋ねた。
 アマリが長いこと黙ったままなので、答える気がないのだろうと思いはじめたとき、彼が急に足をとめ、満足げな笑みを浮かべた。「ここだ」
 エマは目の前に広がる空き地を見つめた。すぐ横を川が流れている。甘い香りのする草が生え、花の咲いた茂みに囲まれた小さな谷間だった。夕暮れのなかでもとても美しい。
「きれいだろう?」
「ええ」声を出してこの場の平安を壊すのが怖くて、彼女はささやくように答えた。
「だから、ここで野営したかったんだ。きみと一緒にこの美しさを楽しみたかった」
 エマはアマリのやさしさに驚いた。こんなに遅くまで休みなく進み続けたのは、このためだったのだ。思いやりに欠けると思っていた彼の行動も、許すことができた。そのとき不意に地面におろされてドレスを引っ張られたので、彼女の思いは千々に乱れた。「アマリ、何を――」
「ここで一日の旅の汚れを洗い流すんだ。そのためには、服を脱がなければならない」
「ええ。でもリトル・ジョージと――」
「彼らには離れたところで待つよう命じてある。何かあったらすぐに駆けつけられるが、こちらを見ることはできない距離だ。心配するな。こいつはどうやってはずせば――」
「こうよ」じれったくなったエマはアマリの手を押しやり、自分でドレスを脱ぎはじめた。アマリはしばらくその様子を見つめていたが、やがて自分も服を脱ぎはじめた。エマが長靴下を脱ぐために川のほとりの丸太に座るころには、彼はすでに裸になって川に入っていた。
 水の冷たさにうめき声をあげるアマリに笑いながら、エマは手をとめて、彼が水のなかに沈むのを見つめた。
「早く来るんだ」アマリがふたたび顔を出し、座ったまま見つめている彼女に言った。
 エマはほほえむと、長靴下が脱ぎやすいよう、下着の裾を片方の腿の上まであげた。アマリが急に静かになったので川のほうへ目を向けると、彼はじっとこちらを見つめていた。彼女は目をいたずらっぽく輝かせると、わざとゆっくり片脚をのばし、長靴下を脱いだ。もう片方も同じようにして脱ぐ。それから物憂げに立ちあがり、下着の裾に手をかけた。そこで一瞬手をとめ、自分がこれからしようとしていることに頰を染めてから、ゆっくり裾をあげてヒップを、腹部を、そして胸を順にあらわにした。
 アマリがうなりながらすぐさま岸に向かってきたが、エマはすばやく服を持って体を隠した。「だめよ。まず体を洗うわ。一日じゅう馬に乗っていたんだから、馬のにおいがするはずだもの」
 彼が足をとめる。そしてためらってから、エマを見つめたままふたたび水のなかにもぐった。エマはゆっくりほほえむと、川に向かって走りながら頭から下着を脱ぎ捨てて、水のなかに入った。ほてった肌に水は驚くほど冷たかった。エマは悲鳴をあげながら深いほうへ向かった。
「冷たいか?」ようやく体が水温に慣れてきたとき、アマリがゆっくり近づいてきて尋ねた。
「ええ」
「あたためてやろうか?」彼はささやくと、エマの手をとって自分のほうへ引っ張った。
「いいえ、いいわ」
 エマは背中を向けてアマリの手から逃れようとしたが、彼は後ろから彼女をつかまえて抱き寄せた。エマのヒップに彼の下腹部が押しつけられる。アマリは耳もとでささやきながら、両手で彼女の胸を包み、さらに体を密着させた。
「寒いはずだ。ほら、鳥肌がたっている」
 エマは笑いつつあえぎながら、かたくなった胸の先端をそっとつまむ彼の手をたたいた。
「まったくいやらしいんだから」
「きみのつくった媚薬(びやく)のせいだな」アマリがからかうように言うと、エマは彼を肘でつつこうとした。薬を飲ませようとしたことを彼女が白状してからというもの、アマリは何かにつけからかってくる。彼はエマの告白を聞いて怒るどころか大いにおもしろがり、それが彼女を戸惑わせていた。残念ながらエマの肘はあっさりよけられ、その拍子に彼の高まりをかすめた。
 エマは水のなかですばやく向きを変え、彼の高まりをつかんだ。アマリの驚いたような表情に顔をまっ赤にしながらも、言い返す。「わたしが寒いはずですって? あなただって鳥肌がたっているじゃないの」