立ち読みコーナー
目次
360ページ
登場人物紹介
リサ                マディソン三姉妹の三女
ロバート・メイトランド       ラングリー卿。マディソン三姉妹の幼なじみ
クリスティアナ           マディソン三姉妹の長女。ラドノー伯爵夫人
リチャード・フェアグレイブ     ラドノー伯爵。ロバートの親友
シュゼット             マディソン三姉妹の次女。ウッドロー伯爵夫人
ダニエル              ウッドロー伯爵。ロバートの親友
モーガン夫人            リサの知人
ベット               リサの侍女
チャールズ・フィンドリー卿     リサの求婚者
ペンブルック卿           リサの求婚者
ティバルド卿            リサの求婚者
(48ページ〜)
 まるで食べごろの桃の化身のようだった。どこもかしこも柔らかな曲線を描いていて、脚はすらりと均整がとれている。絹のようにつややかな髪が黄金の滝のように肩に垂れていた。顔がまた理想的なハート型で、大きな瞳に、口づけしたくなるようなふっくらした唇。
 リサを見つけだし、無事に家まで送り届けたら、あとでまたこの娘を訪ねようか。まずは見咎(みとが)められることなく、リサを救出するのが先だ。しかしロバートがリサを逃がしたとばれたら、モーガン夫人が温かく迎えてくれるかは疑問だった。
 そのとき、ロバートの頭は真っ白になった。まじまじと娘を見つめる。娘は頭をはっきりさせたいのか首を振り、顔にかかった髪をかきあげた。
「まさか!」ロバートは思わず息を呑んだ。艶めかしいガウンを着た美しい娘は売春婦ではなかった。リサ・マディソンだったのだ!
 ロバートは呆然とした。いつもはフリルのドレスに包まれているせいでわからなかった、ほれぼれするような肢体を改めて見つめる。そこでようやくいまどこにいるのかを思いだした。それなのに窓枠にはりついて、リサのほとんど裸同然の姿に抑えきれない欲望を覚えている。かわいい妹のはずだったリサに。
 くそっ! ロバートは屈んで窓を開け、身体を寄せて小さく声をかけた。「リサ」
 ほとんどささやき声に近かったが、リサは勢いよく振り向いた。ロバートに気づいて目を瞠り、こちらにやって来た。
 リサの乳房がたわわに揺れ、丸いヒップが左右に揺れるのがいやでも目に入る。ドレスの下にあんなに魅惑的な身体を隠していたとは、夢にも思わなかった。リチャードとダニエルは正しかった。リサはどこから見ても大人の女性だ。どうしていままで気づかなかったのだろう。
 しかし、すぐにそんな疑問は吹き飛んだ。リサが嬉しそうに飛びついてきて、あやうく窓枠から転げ落ちるところだったのだ。
 リサもろとも真っ逆さまだと、慌てて窓枠をつかむ。改めて、片手でリサを抱きしめた。
「ああ、ロバート。来てくれると信じてたわ」リサはロバートの首筋に顔をうずめた。いつになくたどたどしい口調にロバートは眉をひそめた。
「飲んでいるのか?」身体を離して、リサの顔をのぞきこむ。
「すこしだけ」リサは困ったような顔でうなずいた。「モーガン夫人に葡萄酒を勧められたの。葡萄酒の味がしたけど、なにかおかしかった気がする。それを飲めば、リラックスできるって。お茶のときのように変な薬が入っていたんじゃないかしら。でも、今度は睡眠薬じゃないみたい。なんだか身体に力が入らなくて、ふわふわしている感じなの」
「そうか」ロバートは顔をしかめて、リサのガウンを見下ろした。豊かな胸も、つんと立ったピンク色の乳首も丸見えだった。「なんでこんなものを着ているんだ?」
「モーガン夫人に着せられたの。これを着た姿が見たいという殿方がいるそうよ。似合う?」リサは自分のガウンを見下ろした。「まるで自分の肌みたいに着心地がいいのよ。このままふわふわと飛んでいけそう」
 たしかにふわふわ浮いているような状態らしい。足もとはふらついているし、裸と変わらないのにすこしも恥ずかしがる様子を見せない。モーガン夫人が勧めたという飲み物のせいだろう。
「どうかしら」
 ロバートははっとして、乳首から顔へと視線を戻した。「どうって?」
「このガウン、わたしに似合う?」リサは不満そうだ。「すてきだと思わない?」
「うーん」改めて見下ろした。形のいい胸に柔らかそうな腹、丸みを帯びたヒップ、そして中央の黄金(きん)色の茂み。よく似合っているどころの話ではない。かぶりを振り、落ち着けと自分にいいきかせる。「リサ、早くここから逃げよう」
「わたしもここはいや。おそろしそうな大男がいる前で、お風呂に入らされたのよ。たしかギリーという名前で、すごく怖かったわ。モーガン夫人に頼んでも、ギリーを下がらせなかったの。いうことをきかないと、ギリーにお風呂を手伝わせるといわれて。それだけは絶対にいやだったから、そこにいないものと思いこんだけど。ものすごく恥ずかしかったし、二度とあんなことはしたくない」
 あの野郎を殺してやる。ギリーはモーガン夫人の用心棒で、丸顔で無口な巨漢だった。女の子たちをまとめ、顧客との面倒を一手に引きうけている。そんな男が図々しくもリサの裸体を見物したとは――かわいそうに、どれだけ恥ずかしい思いをしたことか。モーガン夫人はもちろん、あの野郎にも思い知らせてやる。だが、まずはリサを無事救出するのが先だ。
「わかった」ロバートは心持ち身体を離した。「ぼくの背中につかまれ」
「背中?」リサは不安そうな声を出した。
「そうだ。きみをおぶって、壁伝いに降りる」
「どうやって降りるの、ロバート? 蜘蛛(くも)でもなければ無理だわ。さっきみたいに、シーツでロープを作ったらどうかしら。それに――」
「大丈夫だ。実際に登ってきたんだから、降りることもできるさ。さあ、背中につかまって、リサ」ロバートは窓枠の上で横を向き、リサを隣に引っぱりあげた。
 リサはなにかいいたげだったが、おとなしくロバートの背後にまわり、背中につかまった。
「ぼくの腰に脚を巻きつけて」
 リサはロバートの耳もとでなにかつぶやくと、彼の腰に脚を巻きつけ、腹でしっかりと両足を絡ませた。ふと見ると、リサは裸足だった。愛らしい小さなつま先と足の甲、そして――。
「どうしたの?」
 ロバートはまた首を振った。今度は小声でつぶやいたのはロバートだった。大きくため息をつく。「しっかりつかまって」
 リサの返事を待って、ゆっくりと降りはじめた。リサが猿よろしく背中にしがみついているので、なかなかの難業だった。ロバートは歯を食いしばった。降りるのに集中したいのだが、背中のリサが気になって仕方がない。リサが落ちてしまうのではないかと心配だったが、支えてやる余裕はなかった。
「手が滑るようなら、いってくれ」窓枠から格子へ移動しながら、ロバートは小声でいった。
「大丈夫」リサは首筋でささやいた。耳もとをくすぐる吐息に、ロバートの全身に震えが走った。おいおい、なにを勘違いしているんだ。かわいい妹のリサじゃないか。
「あっ」
 ロバートは動きを止めた。格子に移ったとき、リサが痛そうな声をあげたのだ。なにがあったのかと振り向いた。「どうした?」
「なんでもないの。足がなにかにあたったみたい」壁や木の枝にぶつからないようにと、リサは両足をロバートの腹で絡ませた。ところがロバートが身体を起こしたときにすこし滑りおち、いまでは股間に足を押しつけていた。もちろん本人は自分のしていることの自覚はない。ロバートはうめき声を呑みこんだ。リサの足を守るためにすこし身を屈め、降りる速度を上げる。それでも落下もせずになんとか地面にたどりつき、すぐにリサを背中から下ろした。
 リサの足に微妙なところを刺激されなくなったのはほっとしたが、深く考えるのはやめ、リサを抱きあげた。リサの裸身をすこしでも隠したいし、裸足で怪我をしないよう気をつけてやらないといけない。抱きあげたのはそのためだと自分にいいきかせて、足早に小路を出て、待たせてある馬車に急いだ。