立ち読みコーナー
目次
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登場人物紹介
ディロン・サビッチ         FBI特別捜査官
レーシー・シャーロック       FBI特別捜査官
バズ・ライリー           ファースト・ユニオン銀行の警備員。元警察官
ジミー・メートランド        ディロンの上司。FBIの副長官
メリッサ(リッシー)・スマイリー  銀行強盗犯
ジェニファー・スマイリー      銀行強盗犯。リッシーの母親
ビクター・ネッサー         リッシーのいとこ
イーサン・メリウェザー       バージニア州タイタスビルの保安官
オックス・コビン          バージニア州タイタスビルの副保安官
グレンダ・バウアー         バージニア州タイタスビルの保安官助手
オータム・バックマン        七歳の少女
ジョアンナ・バックマン       オータムの母親
マーティン・バックマン       オータムの亡父
ブレシッド・バックマン       オータムの父方の伯父。カルト教団の?キーパー?
グレース・バックマン        オータムの父方の伯父
シェパード・バックマン       オータムの父方の祖母
シオドア・バックマン        オータムの父方の祖父
カルディコット・ホイッスラー    カルト教団の「マスター」
トリー・トルバート         ジョアンナの知人。元FBI捜査官
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 そのとき物音がした。夜中に家がきしむ音とは違う、かすれるような軽い音だ。イーサンは身動きをしないように気をつけると、ゆっくりとベレッタを抜いた。視覚と聴覚を最大限に緊張させ、銃口を周囲にめぐらせた。
 なにもない。
 小声で穏やかに尋ねた。「誰かいるのか?」
 わずかな間を置いて、小さな声がした。「あたしだけ。あなたと猫ちゃんたちを見てたの。すごいのね、すばやくて。あたしも遊ばせてくれる?」
 さっと背後を見ると、玄関のところにオータム・バックマンが立っていた。ポニーテールにした茶色の長い髪が乱れ、ジーンズとTシャツは皺になっていた。小さな足にオレンジ色のスニーカーをはいている。二十年もしたら、母親とうりふたつになるだろう。
「ケガはない?」
 オータムがうなずいた。
「いつからここにいたの?」
 オータムが大きな青い瞳で、じっとイーサンを見た。この子もおれを怖がってるのか? 「話してくれないと、なにもわからないぞ?」
 オータムはスニーカーを見おろして、眉根を寄せた。片方の靴紐がほどけかかっている。だが、彼女は動かなかった。「あなた、保安官なんでしょう?」
「ああ、そうさ。今日は五十人ぐらいの人たちといっしょに、きみを何時間も捜しまわったんだ。きみのことをすごく心配してたんだ。誰かに連れていかれそうになって逃げたのかい?」
 オータムはゆっくりと首を振った。まだこちらを見ようとしない。母親と同じだ。それでも娘のほうは多少なりと信頼してくれたらしく、イーサンの自宅に隠れていた。誰から、なんのために?
 イーサンはゆっくりと少女に近づいた。ビッグ・ルイもマッキーもルーラも少し離れて、様子を見守っている。彼女がここにいるのを知っていて、隠れなかったのだ。ふだんなら知らない人がいると、三匹ともベッドの下にもぐって、尻尾を緊張させている。イーサンは少女を怯えさせないように細心の注意を払いつつ、彼女の前に膝をついた。
「ほんとのとこ、なぜここに来たんだい、オータム?」
「トリーおじちゃんがいないから、あなたに守ってもらおうと思って」
 だが、おれがきみを捜しにいっているあいだに誰かがここへ来たら、おれにはきみが守れないだろう? いや、込み入った質問はやめよう。「きみを誰から守るんだい?」
 深入りしすぎだったことが、すぐにわかった。少女はひるみ、両手を自分の体に巻きつけた。そのまま黙りこみそうになったが、ルーラの鳴き声で、顔を上げた。マッキーも鳴き、ビッグ・ルイが吠えた。三匹がそろってイーサンの後ろにならんでいた。
「みんな、かわいい」
「うっとうしいやつらさ」イーサンは笑顔でそう言い、笑い声をあげた。少女の手が脇に戻って嬉しかった。「ルーラは三毛猫だよ。ほら、白地に黒と金色のぶちがあるだろ? とても独立心が強いんで、約束をしておかないと、朝の挨拶をしてもらえないんだ。こっちはマッキーで、オレンジ色と白の大きなとら猫だ。これだけ大きいと自分で食事を運んでこれると思うかもしれないけど、これでこいつは意気地なしなんで、食っちゃ寝の生活を送って、おれに耳をかかせたり、ハンサムだと褒めさせたりしてる。ビッグ・ルイは黒のラブラドールだ。強くてやさしいから、ずっとだってハグしてたくなるぞ。こいつと猫たちはうまくやってる――びっくりだけど、ほんとでさ」
 少女が「ルーラ、マッキー」と声をかけた。イーサンが見ていると、猫たちはこそこそするのをやめて彼女のほうへ向かった。驚いたことに、独立心旺盛なルーラがオータムの脚に体をすりつけはじめた。マッキーのほうは恥を知らない。前肢を彼女の胸にかけて、全身でもたれかかった。少女は笑い声とともにマッキーを抱きあげ、よろめいたので、イーサンが体を支えてやった。
「おれのことはイーサンって呼んでくれないか?」
 少女はかぶりを振った。「ママがあなたには近づいちゃだめ、離れてろって」
 もはや意外でもなんでもない。「理由を聞いたかい?」
 少女がぼそぼそ答えた。「あなたが信じてくれるわけないからだって」
「でも、きみはここへ来ただろ?」
「うん」少女が小声で答え、小さな片方の手をビッグ・ルイに向かって伸ばした。「あたしより大きいんだね」
「ああ、そうだね。でも、彼の骨を盗もうとしなきゃ襲われないし、仲良しになれるよ。きみのお母さんに電話してもいいかい、オータム?」
「そんなことしたら、ママがここに来て、そしたらあいつもここに来て、ママはあいつを止めようとして、ひどいことになるかも」
 そう言いながら、少女はルーラの背中を撫でていた。ルーラが背を丸めて大音量でごろごろ言っていると、マッキーが叩いた。ルーラはそちらを向き、マッキーに歯をむいた。
「おいおい、おまえたち、オータムの前でみっともないまねするなよ。かわいい名前だね、オータムか」
「パパがそうつけたがったんだって。もう死んじゃった」
「お気の毒に。病気だったのかい?」
 少女は首を振り、「ひどいひどい話なの」と、マッキーに手を伸ばした。