立ち読みコーナー
目次
640ページ
登場人物紹介
マーガレット(マギー)・エリザベス・キンケイド     元FBIの人質交渉人
ジェイク・オコナー                   元陸軍のセキュリティ・アドバイザー。
ポール・ハリソン                    FBI捜査官。マギーの元婚約者
フランク・エイデンハースト               FBI捜査官。マギーの元上司
エリカ                         マギーの姉
グレイス・シンクレア                  FBI心理分析官。マギーの元同僚かつ親友
シーブズ                        米上院議員
ミセス・シーブズ                    シーブズ上院議員の妻。名家の出身
カイラ                         シーブズ夫妻の一人娘
マックス・グレイソン                  シーブズ上院議員の秘書
ミスター・ブラック                   謎の捜査官
318ページ~
「わかってる」マギーは言った。「でも彼らは?」ドアのほうを指した。「捜査官たちは私を嫌ってる。私は彼らを差し置いて出世したくそ女よ。私が失敗したとき、あの人たちはそれをずっと待っていたかのようだった。今度もまた私がしくじるのを待ってるのよ。そしてこれは彼らにとってこのうえない爆弾だわ」
「そんなのは放っておけ」
 マギーはぽかんと口を開けた。「なんですって?」
「聞こえただろう」ジェイクが言った。「そんなのは放っておけばいいんだ。君ほどの適任者はいない。そうだろう? 僕が君のことで連絡した相手は誰もがそう言った。ひとり残らずだ、マギー。彼らは君が闘犬みたいだと言っていた。君は決してあきらめないし、決して止まらず、決して疲れないと。みんなが口をそろえて言ったよ。この事件を担当するのに最も適任なのは君だと」
 マギーは頬が熱くなるのを感じながら、会議室に続くドアをちらりと見た。「彼らは私を卑劣な手段で攻撃しようとしてくるわ」力なく言った。
「僕が君を援護する」ジェイクが約束した。
 マギーは以前にもその言葉を数えきれないほど聞いたことがあった。同僚から、友人から、恋人から。
 しかし、これほどまでにその言葉を信じられたのは初めてだ。
 気づいたときには手を伸ばしていた。長身のジェイクに合わせて爪先立ちになり、片手を彼の肩に置いてバランスを取りながら、無精ひげの生えた頬にキスをした。「ありがとう、オコナー」マギーは静かに言った。
 身を離しかけたマギーの腰をジェイクがつかまえ、くびれた部分を広げた指で支えた。シャツの布地越しに感じる指先の五つの点が燃えているかのようだ。ジェイクがマギーの唇に視線を落とす。
「今ここで君にキスすることもできる」かすれた声で言った。
「そうね」マギーは息も絶え絶えに応じた。心臓がどれほど激しく打っているか、ジェイクにも聞こえるだろうか? 
 ジェイクはもう一方の手を上げ、親指で彼女の下唇を撫でた。マギーはうっとりと目を閉じ、うずくような衝撃が体じゅうで躍りまわるのを感じた。マギーがゆっくりと目を開けると、ジェイクは美しい神秘的な生物でも見つけたかのように彼女を見つめていた。何時間でも、何日でも、何カ月でも時間を費やしてその謎を解き明かしてみせるというように。
「だがそうしてしまったら、自分を止められなくなるだろう」
 マギーはほほえんだ。「だったら私を放して」彼女はささやいた。
「それは命令かい?」ジェイクはいたずらっぽい少年の目つきになってにやりとした。マギーの胸の中で心臓がよじれた。どうして彼はこんなにさまざまな笑顔を見せることができるのだろう? マギーはそのすべてを見たいと思った。それをジェイクといっしょにいる理由にしたかった。
「命令してほしいの?」彼女は言い返した。
 ジェイクはマギーを放した。名残惜しそうに彼女の体から指を離す。「君はいつだって僕に命令していいんだ、ブロンドちゃん」
 マギーは顔を赤らめ、それを見たジェイクの顔に笑みが広がった。
「さあ、仕事にかかろう。捜査官たちが想像しているとおりのひどいくそ女になればいいんだ、マギー。やつらはどう対応すればいいかわからなくなるはずだ」
「援護してくれるのね?」マギーはあの言葉をもう一度聞きたかった。もう一度感じたかった。あの希望に満ちたあたたかな感情を。ジェイクの信頼を受けて胸の中に芽生えはじめた感情を。今ここでその感情の正体を——どこから現れ、いかに早く根づいてしまったかを考えている場合ではないが、おかげで安心できるのはたしかだった。
「僕が君を援護する」ジェイクは約束した。