立ち読みコーナー
目次
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登場人物紹介
ジェイムズ・”ジェイミー”・シモンズ中佐        沿海域戦闘艦〈コロナド〉副長、のち大佐、ミサイル駆逐艦〈ズムウォルト〉艦長
ホレイショ・コルテス大尉               〈コロナド〉砲雷長、のち少佐、〈ズムウォルト〉副長。
ヴァーナライズ・”ヴァーン”・リー博士         中国系の電子工学エキスパート、〈ズムウォルト〉のレイルガン装備を担当
マイク・シモンズ上等兵曹(退役)           シモンズの父、復帰して〈ズムウォルト〉に乗り組む。
キャロライン・”コナン”・ドイル海兵隊少佐       米軍の生き残りの反乱勢力「ノースショア・ムジャヒディン」の指揮官
エヴァンジェリン・マレー中将             ゴースト・フリート司令官、〈アメリカ〉座乗
ウラジーミル・アンドレイェヴィッチ・マルコフ大佐   ハワイ駐在のロシア軍特殊部隊将校、中国軍との連絡担当
玉喜来【ユー・シーライ】将軍             中国軍ハワイ特別統治区司令官
キャリー・シン                    ホテル従業員。連続殺人犯「ブラック・ウィドー」
王小虔【ワン・シァオチェン】海軍中将         タスク・フォース司令
臨玻強【リン・ボーチァン】上将            艦隊総司令員
威銘【ウェイ・ミン】上将               地上軍総司令員
サー・エイリック・カヴェンディッシュ         本名アーチス・クマール。バイオ関連の特許で成功、世界で七番目の金持ち
アレクセイ・デニソフ海軍三佐             ロシア軍狼航空隊所属、のち二等海佐、MiG-35Kパイロット
*下巻123ページ~
「こちら中国宇宙ステーション天宮、未確認宇宙機に呼びかけている。われわれの飛行禁止区域を避けるようただちに針路変更することを命じる」昌はいった。「それ以上進めば攻撃する。応答し、受信したことを確認しろ」
 その命令への応答は、けたたましいロックンロールだった。
 
 腰に死を乗せ
 口から泡を吹き
 やつらのうしろには血の影
 やつらは宇宙の海賊
 
ロックンロール・ソングは、高度な機械工学によって作られた宇宙ステーションの狭い空間では、まるで意味をなさないような、奇怪で残忍な歌詞をほとばしらせていた。
「やつら、あのひどい音楽を切ることすらしないのか?」歓がいった。「これでわかった。アメリカ人にちがいない。自殺するのに、なんて莫大な金をかけるんだ」
「十秒後に飛行禁止区域に侵入します」昌はいった。
「よし」歓がいった。「それなら、あの騒音を聞くのもそこまでだ」
 歓が赤い発射ボタンを押すのが、ターゲットが宇宙に引かれた境界線を越える前だったのに、昌は気づいた。すくなくとも一秒以上早い。音楽で頭にきたのか、それとも、このクソ野郎は、物体ではなく生身の人間を早く殺したくてたまらなかったのか。
 だが、そのとき——なにも起こらなかった。
「レーザーは機能しているのか?」歓がいった。「損害をあたえた気配がない」
「センサーはターゲットをちゃんと追尾しています。目標に命中したことを示しています」昌はいった。
 歓がもう一度赤いボタンを押した。ぎゅっと押せば、こんどこそうまくいくとでもいうように、強く押し込んだ。
 やはりターゲットに損害が生じたようすはなかった。レーザーはたしかに発射されていたのに、何事もなかったかのようだった。
「全システム・リセット。早くしろ」歓が命じた。
「ターゲットが減速しています」昌は報告した。
「もっと間近に見えるようにしろ」歓がいった。宇宙機を指差したつもりだったが、指は宇宙ステーションの隔壁に向けられていた。照準ゴーグルのバーチャル映像で、そういう錯覚がよく起きる。自分がどこにいるかを忘れてしまうのだ。
 画面がレーダー照準アイコンから、宇宙ステーションの光学望遠鏡の映像に変わった。焦点が合うと、その宇宙機はいままで見たこともないような光り輝く物体だと、昌は気づいた。
 
 やつらのうしろには血の影
 やつらは宇宙の海賊
 
 歌は何度もくりかえされていた。何度だったのか、昌にはわからなくなっていた。
「システム再起動。オンラインに戻りました」
 歓がまたレーザーを発射し、目がくらむような光の輻が照準点に当たるのが見えたが、機体を灼いて貫通することはなかった。
「なにかの反射被覆があって、レーザー・エネルギーが跳ね返されているようです」昌はいった。
「接近したら何度耐えられるか、見届けてやろう」と、歓がいった。
「中校、距離が縮まると、こっちも危険です。近づいてから発射すると、反射したレーザーがこっちに当たるおそれがあります」昌はいった。
 歓は答えなかった。黙って赤いボタンを押した。レーザーがまた発射された。
 効果はなく、さいわいレーザーは宇宙ステーションに跳ね返ってこなかった。宇宙機が減速し、三キロメートルの距離で停止した。姿勢制御ジェットを点火し、小さな炎が噴き出して、レーザーの射角外で、宇宙ステーションと平行する軌道に乗った。きらきら輝く宇宙機が悠然と回転し、主翼がすっかり見えた。
「あれはなんだ?」自分が目にしているものがなにかはわかっていたが、歓はそういった。
「髑髏(どくろ)」昌はいった。「その下にぶっちがいの骨二本」
 
 やつらは宇宙の海賊
 面白半分、銀河を略奪する
 
 そこで音楽がとまり、宇宙ステーションは沈黙に包まれた。
 奇妙ななまりのある声が聞こえた。昌の妻が大好きな古いドラマ——荘園の大邸宅の地下に住む召使たちの話(不明だが《ダウントン・アビー》を想起させる)——に出てくるイギリス貴族と、インド人をかけ合わせたようななまりだった。
「天宮、天宮。卒爾ながら吾輩は、サー・エイリック・カヴェンディッシュ、合法的に認許された私掠船“敵影発見(タリホー)”号の船長である」声の主がいった。「汝らの降伏を要求する」